難病なのに無症状な場合もある?後縦靱帯骨化症とは

人間の脊柱には大きく5つの靭帯が存在し、それらがあることで脊柱がバラバラにならずに保つことができます。
脊柱の前面より『前縦靭帯(ぜんじゅうじんたい)』、『後縦靭帯(こうじゅうじんたい)』、『黄色靭帯(おうしょくじんたい)』『棘間靭帯(きょくかんじんたい)』、『棘上靭帯(きょくじょうじんたい)』があり、後縦靭帯と黄色靭帯の間に脊髄神経が走っています。

椎間関節の構造

椎間関節の構造

その中でも後縦靭帯は椎骨の前方へのズレを抑制する脊柱の代表的な靭帯です。
しかし、何かしらの原因でこの後縦靭帯が骨化(こっか)してしまうことがあります。
これを『後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)』(OPLL)といいます。
後縦靱帯骨化症はいわゆる難病の1つで、何故、骨化してしまうのか現在の医学をもってしてもはっきりと判らない病気なのです。

後縦靱帯骨化症が発症してしまう原因は不明

後縦靱帯が何かしらの原因で骨化してしまうことにより、この靭帯はやがて厚みを増していきます。

厚みが増すことによって後縦靭帯と黄色靭帯の間の管(脊柱管)が狭くなり、そのことが原因で脊髄神経を圧迫し、痛みや痺れなどの神経症状が誘発されてしまうのです。

靭帯が骨に変化してしまう場所によって後縦靭帯骨化症は『頚椎後縦靱帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう』、『胸椎後縦靱帯骨化症(きょうついこうじゅうじんたいこっかしょう)』、『腰椎後縦靱帯骨化症(ようついこうじゅうじんたいこっかしょう)』などと名称が異なってきます。

後縦靭帯の構造

後縦靭帯の構造

当然、骨化する場所により神経症状の発症する場所も異なってくるので、時には腰や下肢、時には首や背中、手などに痛みや痺れといった様々な神経症状が現れるようになります。
更に悪化すると歩行障害や運動障害など、日常生活にも大きな支障をきたすようになります。
後縦靱帯骨化症は日本人の約3%が発症し、その中でも特に肥満、糖尿病、高齢者の方がほうが発症しやすいと言われています。

また、ホルモンの異常やカルシウム、ビタミンDの代謝異常も原因として考えられているのですが、現在、最も有力な説は『遺伝的要因』です。
ある家系に多発していることから『後縦靭帯骨化症は遺伝性があるのでは?』と考えられており、兄弟にこの後縦靱帯骨化症の人がいると約30%の確率で後縦靱帯骨化症を発症してしまうと言われています。
しかし、実際のところ、この後縦靱帯骨化症にかかる原因が何なのか?というのはまだはっきりとしたことは解明されていません。

後縦靱帯骨化症の具体的な症状

後縦靭帯骨化症は他国に比べて日本での発症例が多く、男女比では2:1とどちらかと言えば男性が多く発症する傾向にあります。
年齢とともにこの後縦靱帯骨化症になる人が増えているという報告があがっていることから、誰にでもなり得る病気であると言えます。
後縦靱帯骨化症と言っても、症状の重さは人それぞれで、軽度の症状でおさまる人も多いことから一般的にはあまり知名度が高くない病気なのですが、重度になると日常生活を営むことも困難になります。
頚椎に後縦靱帯骨化症が起こった場合は頚の痛みや肩甲骨周辺の痛み、上腕から指先の痛みやしびれが発症します。
更に症状が悪化すると指先の細かい作業を行うことが困難になり、物を持つことすらもままならなくなります。
腰椎に後縦靱帯骨化症が起こった場合は臀部や大腿部にしびれなどの感覚障害が発症し、足に思うように力が入らなくなってしまいます。
重症になると立ったり歩いたりすることが困難となったり、また、排尿や排便障害が発症する場合もあります。
胸椎に後縦靱帯骨化症が起こった場合は体幹や下半身に症状が発症し、下肢の脱力やしびれ等が起こってしまいます。
重症になると腰椎のときと同じように歩行困難や排尿や排便障害が出現することもあります。
後縦靱帯骨化症を発症しても、初期のころは無症状だったり、症状があっても身体の一部に軽く痛みやコリ感じる程度です。
しかし、進行すると上記のような重度の症状が発症することがあるのです。
『これくらい大したことはない』と自己判断をするのではなく、違和感を感じたらなるべく早い段階で整形外科医の診察を受けるようにした方が良いと思います。

後縦靱帯骨化症の予防と治療方法

この病気の原因がはっきり分かっていない以上、予防法も確立されていません。
症状が軽度の場合、きちんと医師の診察を受けずに民間療法の鍼・灸・マッサージ、カイロプラクティック、整体などで治そうとする人も少なくはありません。
しかし、後縦靭帯骨化症はまだ解明されていないことが多い難病なので、これらの民間療法が必ずしもいい結果をもたらすとは限らないということは頭の片隅に置いておいてください。
後縦靭帯骨化症は躓いて転倒したりするとそれがきっかけで一気に神経症状が悪化することもあるので、日頃から転ばないように足元に気を付けるようにしましょう。
後縦靭帯骨化症の治療には保存療法と手術療法の2つに大別されます。
保存療法とは手術以外のすべての方法を指し、安静、固定、薬物療法、理学療法、運動療法など、その方の症状によって対処が異なります。
症状が軽度であれば保存療法を行うのが一般的です。
これによって症状が治る場合もありますが、人によっては効果がなく、悪化する可能性もあるのでその際には手術療法も視野に入れなければなりません。
手術は主に『骨化している部分を摘出する』方法と『脊髄が走行している脊柱管を拡げる』方法があります。
骨化が大きい場合は前者を選択する場合が多いのですが、胸椎などでは後者を選択する場合が多いようです。
何れにせよ後縦靭帯骨化症は前縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症などの症状を合併しやすい症状で、神経に関わる病気であるため、安易な考えで行動しないように気をつけた方が良いと思います。
素人判断せず、身体に違和感を覚えた時点でなるべく早くに整形外科医の診療を受けるようにしましょう。






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当サイトの編集長の佐藤伸一(さとうしんいち)です。
都内でトレーナーとして約20年活動し、その後、カイロプラクターとして約10年活動していました。
現在はフリーランスで活動していて主に健康や運動に関する情報を発信しています。

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