ローテーターカフが原因?肩関節周囲炎のメカニズムとは

肩甲上腕関節はいわゆる肩関節(けんかんせつ)のことで、肩甲骨の関節窩(かんせつか)と上腕骨の上腕骨頭(じょうわんこっとう)で構成されています。
分類上は股関節と同じ球関節(きゅうかんせつ)で肩甲骨の関節窩に上腕骨の上腕骨頭がはまって構成されています。

肩関節の構造

肩関節の構造

しかし、肩甲骨の関節窩に対し、上腕骨の上腕骨頭が大きいために可動域は広い反面、関節の結合が緩く、脱臼しやすいという特徴をもっていて、何かしらの影響を受けると肩を動かした瞬間、激しい痛みと共に腕が上がらなくなってしまう症状が出ることがあります。
これを俗に肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)といいます。

肩関節周囲炎には「発症原因がはっきりしない」ものと「発症原因がはっきりしている」ものに分類され、四十肩、五十肩は「発症原因がはっきりしない」ものに分類されます。

発症原因がはっきりしないもの
 ・四十肩、五十肩

発症原因がはっきりしているもの
 ・インピンジメント症候群、石灰沈着性腱炎、腱板断裂、上腕二頭筋長頭腱炎

腕が上がらない、不自由な動きになってしまうなど症状がはっきりしているので、慌てて整形外科などで検査を受けた経験を持つ人もいるでしょうが、発症原因がはっきりしないタイプの肩関節周囲炎はレントゲンやMRIなどで調べても、特に異常が見つかることもありません。

肩関節周囲炎の発症原因としては、肩の周囲を取り巻く筋肉の筋力や柔軟性のアンバランス、腱、靭帯などの問題などが考えられます。
肩関節周囲炎の多くは肩関節周辺にある筋肉を鍛えることでこれらの症状を改善することが可能です。
しかし、石灰沈着性腱炎、腱板断裂などが原因で起こる肩関節周囲炎の場合はときに手術を行う必要もあり、自助努力だけではどうすることもできません。

ローテーターカフとは

肩の代表的な筋肉として代表的なものとしては三角筋(さんかくきん)や僧帽筋(そうぼうきん)などがあります。
三角筋は肩関節に覆いかぶさるように存在し、主に肩関節の屈曲-伸展、水平内転-水平外転、内転-外転、内旋-外旋などの動作に貢献します。
これらの筋肉は表層筋(ひょうそうきん)と呼ばれることがあります。文字通り、肩の表層部にあるからです。
表層筋と呼ばれるからには当然、深層筋(しんそうきん)と呼ばれる筋肉も存在します。
深層筋は表層筋の深部にある筋肉で肩関節周辺の場合は『ローテーターカフ』と呼ばれる深層筋群があります。
ローテーターカフは肩甲下筋、小円筋、棘上筋、棘下筋の4種類の筋肉で構成され、表層筋とは少々役割が異なり、肩甲骨の関節窩と上腕骨の骨頭が離れないように安定させるために存在します。
勿論、肩関節の外転、内旋-外旋、などといった運動動作にも関与しますが、ローテーターカフの一番大きな役割は肩関節の安定化をはかることです。
肩関節の周囲のトラブルの全てがローテーターカフに問題があるからだとは断言できませんが、腕から肩にかけての動きが制限されたり、痛みを発症することからも、この深層筋が何かしらの影響を及ぼしている可能性はあるのです。

肩関節周囲炎の発症直後の処置

ここまでのお話しで、もうお解りの方も多いと思いますが肩関節周囲炎を改善したり予防するには、やはり肩関節の安定化を担っているローテーターカフを鍛える必要があります。
しかし、肩関節周囲炎を発症した直後は激しい痛みに襲われている時期ですから、いきなりこれらの筋肉を鍛えるのは寧ろ避けなければなりません。
痛みがあるならまず安静にして、場合によってはお医者さまから処方された飲み薬やはり薬(場合によってはヒアルロン酸注射)などを用いて一日も早く炎症を軽減させる必要があります。
また、日常生活での動きについても気をつける必要があります。
特に外転といった手を真横に持ち上げるような動きや、結滞動作(帯を結ぶように手を腰の後ろに回す動作)、結髪動作(髪の毛を結うような動作-これは外転動作に含まれます)、また、肩をぐるぐる回す動作は絶対に避けなければなりません。
肩をぐるぐる回す動作は日頃ついつい行いがちな動作ではあるのですが、その痛みの発症原因や発症場所などを考えるとそれを行ってしまうことで却って症状を悪化させることもあります。
特にインピンジメント症候群が原因で肩に痛みがある方は肩をぐるぐる回す動作は絶対禁忌です。
それらを繰り返すことで痛みの症状が悪化するだけではなく、最悪、棘上筋の腱が断裂してしまう恐れがあるからです。

肩関節周囲炎の改善、予防方法(第一段階)

よほどのことがない限り、おおよそ1~2ヶ月くらい経過すると、痛みが少し和らいできます。
痛みが治まってきたら、そろそろローテーターカフを鍛えたいところですが、実はこの前にまだやらなければならないことがあります。
それは狭くなってしまった肩関節の可動域の向上化をはかることです。
これまで肩関節を安静にしてきたことにより、かなり肩関節の可動域が狭くなっているはずです。
確かに痛みこそは少なくなったかもしれませんが、このまま肩関節の可動域が狭くなった状態を放置すると動きがぎこちなくなり、日常生活に支障が出るばかりか、肩関節周囲炎を再発させてしまう恐れすらあります。
なのでこれから紹介する運動を毎日、少しずつでもいいので行うようにしましょう。
ここで、家庭でも手軽にできる運動療法を2つほど紹介したいと思います。
一つ目は『尺取虫体操(あるいは壁伝い体操とも呼ばれる』、二つ目は『アイロン体操(あるいはコッドマン体操とも呼ばれる』です。

・尺取虫体操

尺取虫体操

(写真1)ファーストポジション

尺取虫体操

(写真2)セカンドポジション

  1. 身体の側面を壁に平行に向けた状態で指先を壁につけます。人差し指と中指で壁を伝いながら、腕を上げる動作を繰り返します。
  2. 一日に4~5回、一回につき5~10分くらい行うのが理想的ですが、痛いなら少ない回数でも構いません。徐々に回数が増えていけば効いている証拠だと判断できます。
  3. また、壁に向かって立ち、腕を壁方向に伸ばして行う尺取虫体操もおすすめです。

・コッドマン体操

コッドマン体操

(写真1)ファーストポジション

コッドマン体操

(写真2)セカンドポジション

  1. イスやベットなどに痛くない方の手で身体を支え、上体を前傾に倒します。
  2. 肩が痛む側の手でダンベルやペットボトル等を持ち、なるべく肩の力を脱力した状態で腕をブランと下ろします。
  3. 腕を振る感覚でダンベルを静かに前後に揺らします。慣れてきたら、ふり幅を少しずつ大きくしたり、手を左右や円を描くように動かすバリエーションも取り入れていきましょう。
  4. 一日に2~3回、一回の動作につき20~30回くらい行うのが理想的ですが、痛いなら少ない回数でも構いません。

肩関節周囲炎の改善、予防方法(第二段階)

肩関節の痛みもほとんど感じなくなり、肩関節の可動域が増えてきたら次の段階に移ります。
この段階から積極的にローテーターカフを鍛えていく必要があります。
先にも述べたとおりローテーターカフは4つの筋肉で構成されています。肩甲下筋、小円筋、棘上筋、棘下筋の4種類がそうなのですが、肩甲下筋に関しては大胸筋、広背筋、大円筋などの筋肉も関連していくので、あえて積極的に鍛える必要はあまりないと思います。
さしあたっては、小円筋・棘下筋、棘上筋を鍛えるだけで十分でしょう。

・エンプティカンエクササイズ(棘上筋を鍛える運動)

エンプティカンエクササイズ

(写真1)ファーストポジション

エンプティカンエクササイズ

(写真2)セカンドポジション

  1. セラバンド(ゴムチューブ)の端を足で踏みつけ固定し、もう片側を握ります。
  2. 肩がすくみ挙がらないようにし、セラバンドを真横ではなく、前方斜め30°、側方にひきあげます。また、運動中は終始親指が下を向くようにしましょう。
  3. 一日に2~3回、一回の動作につき20~30回くらい行うのが理想的ですが、痛いなら少ない回数でも構いません。

・エクスターナルローテーション(棘下筋、小円筋を鍛える運動)

エクスターナルローテーション

(写真1)ファーストポジション

(写真2)セカンドポジション

エクスターナルローテーション

  1. セラバンド(ゴムチューブ)を柱などに結びます。このときできるだけセラバンドは自分の肘の高さに結びつけるようにします。
  2. セラバンドの端を握り、腕を体幹に固定し、肘を90°に曲げます。
  3. 肘の角度を90°に保ちながら腕を外側に捻じるような動作を行います。
  4. 一日に2~3回、一回の動作につき20~30回くらい行うのが理想的ですが、痛いなら少ない回数でも構いません。






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当サイトの編集長の佐藤伸一(さとうしんいち)です。
都内でトレーナーとして約20年活動し、その後、カイロプラクターとして約10年活動していました。
現在はフリーランスで活動していて主に健康や運動に関する情報を発信しています。

公式サイト:
https://shinichi-sato.info/

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